ありがとうの言葉で……














「ラクスっ!!」



……君に銃口が向いていることに気づいたとき。

心臓が止まるかと思ったんだ……。









キラは、海を見てため息をついた。

足元で砂が、じゃり、と音を立てる。

ふとキラは、海から目を離し、自分の両手を見つめると、ぎゅっと握り締めた。



守れた……。



ラクスが無事だった。そのことに対してキラは安堵していた。

と、共に、浮かぶ思いがある。



……次も、守れるだろうか?

また、危険な目にあわせてしまうのではないだろうか?



キラは、海へと視線を戻すと、無言で目を瞑った。









「キラ……?」

ラクスは、キラを探していた。

どこにいるのだろう。

朝から姿が見えないのだ。

フリーダムに再び乗ったときから、様子がおかしいことにはラクスも気づいていた。



あの後……、フリーダムから降りてきたキラから、ラクスは視線をはずせなかった。



…………辛そうな、顔。



「大丈夫ですか?」

思わずそう聞いたラクスに帰ってきたのは、「大丈夫」という言葉。

そして、悲しげな微笑み。



辛くないはずはないのに、無理をしているのだろうキラに、ラクスは胸を痛ませた。

そうして、キラが去っていくのを、そのときは見ていることしか出来なくて。

どうすれば元気付けられるのかわからなくて。

黙って後姿を見つめていたのだ。



でも、それでも、どうにかして自分の思いだけでも伝えたいと思い、ラクスはキラのことを、一夜明けた今、探していたのだ。



「キラー!」

もう一度彼を呼ぶが、返事は返ってこない。



……と、身を指す太陽を見上げた瞬間、目の端に移る、黒い、影。

それはまさしく、キラの姿で……。



「……っ」

ラクスは、身を翻すとキラの元へと足を走らせた。









浜辺へ出ると、遠くに見えるキラの後姿。

「キラッ!!」

そう叫ぶと、ラクスはキラのもとへ駆ける。

心を占めるのは、キラのことだけ。

砂のせいで足がもつれても、全くかまわなかった。



寂しそうに見えた。

辛そうに見えた。

……一人に、したくなかった。



「キラッ!!」

もう一度叫ぶと、びくっ、とキラの方が震える。

……と、キラが振り向いた瞬間、ラクスの足がもつれ、大きく傾いだ。

ぶつかる!!

そう思い目を閉じたのは一瞬。

そうして感じたのは柔らかな感触。

ふわふわする。

どうして……?



ぼーっ、としたままラクスが目を開けると、目の前にはキラの顔。



「っ!!」

ぱっと目を背けると、ラクスは頬を赤らめながらうつむいた。



「ありがとう……大丈夫ですわ」



ラクスの言葉にキラも安心したように笑う。

そして、キラはラクスをしっかりと立たせると、また微笑む。



「よかった、ラクス……無事だよね」



キラのその言葉は、今の事だけを指しているわけではないのは明白で。ラクスは、やはりキラは辛い思いをしていたのだ、と思いながら、「はい」と頷く。



「あなたが、守ってくださいましたから。今も……そして……」



ラクスはそこで、口を閉じ、キラの瞳をじっと見つめた。

悲しげな瞳。

波の音までもが悲しく聞こえる。

泣いてしまいそうになったが、ラクスは微笑み、口を開いた。



「……今までも、ずっと」

「っ!!そんなこと……」

ない。

キラがそう首をふるが、ラクスもまた「いいえ」と首をふり、話を続けた。

「……キラ。昨日、フリーダムに乗った時だって、AAに居た時だって……そう、初めて会ったときからずっと、あなたはわたくしを守ってくださいました。あなたが、そう思わなくとも、そうなのです。……わたくしにとっては……」



あなたが居るから、私はこうしていられるのです。

悲しみを乗り越えられたのです。

強くあろうと思えるのです……。



ラクスは、心の中でつぶやいた。



いつもは、酷く大きく聞こえる波の音が、ラクスにはどこか遠くに聞こえた。

心を周りへ向ける余裕などなく、ただただ、キラを見つめるだけ。



「ありがとう、ございます、キラ……」



それは驚くほどたくさんの、思いの詰まった、言葉。

悲しみと、いとおしさに、ラクスの声が震えた。

すべてに、感謝した。



キラが居ること。

キラと、出会えたこと。

そして…………出会ってからわかった大切なことにも。



「ありがとう」



ラクスはキラに思い切り抱きつくと、その言葉を繰り返した。

そうしてキラも。



「僕こそ、ありがとう、ラクス」



ゆっくりと、つぶやいた。









苦しみ、悲しみ、痛み。



あなたにとってのそんなものが全てなくなればいい。

あなたが、ずっと優しく笑っていられる世界になればいいのに……。



ラクスはそう思い、キラの胸で、そうっと目を閉じた。







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☆あとがき☆


種運命の話です。時間的には、読んでのとおり、キラが再びフリーダムに乗った後の話。

あのあたりはキララクの宝庫なので、書きたい、とは思ってました。……ので、つい書いちゃいました。

あのあたりは何度見ても、頭がキララクでいっぱいになって幸せです。

そんな思いが伝わればよいのですがね。