雪をとかす、ねつ。
顔になにか冷たいものが当たり、キラは空を仰いだ。
目に映るのは、白く、ふわりと舞うもの。
――雪が降り始めた
ラクスは子供達と本を読んでいた。
が、いつもならば、「はやく、はやく」とせかしてくる声が聞こえてこない。
なぜだろう?
そう思い顔を上げた瞬間、それは目に飛び込んできた。
雪だ。
ふわりふわりと窓の外に降っている。
子供達はこれに夢中だったのだ。
皆口々に「キレーイ」「真っ白!!」などと言い嬉しそうにしている。
そんな子供達にラクスは微笑んだ。
「皆さん、外に出ましょうか?せっかくの初雪ですもの」
すると子供達は、ぱっと顔を輝かせ、ラクスの方へ体を向ける。
「本当!?」
「外、出ていいの?!」
「ええ、ですが……」
ラクスは笑みを深くして、子供達に顔を寄せる。
「……暖かくしていきましょうね?こんなに寒いのですもの。風邪を引いては大変ですわ」「うん」
「はーい!」
子供達は元気よく返事をすると、早速準備を始めた。
そしてラクスも、そんな子供達を優しげに見つめ、
それから自分のコートを羽織ったのだった。
「キラ……?」
海岸にラクスは思いがけない人物を見つけた。
雪の中、キラが一人で佇んでいるのだ。
「あー!!キラおにいちゃんだー!」
「海岸にいるー!!」
何人かの子供達はそう叫び、キラの許へと走っていってしまう。
「あらあら……」
ラクスも子供達の様子に、そう呟いていると、突然、手を引っ張られた。
「ラクスお姉ちゃんも行こうよ!!」
そう言い、ラクスをどんどんと引っ張っていく。
ラクスもくすくすと笑い、
「皆さん、少し急ぎすぎですわよ?」
そう言いながらも、ラクスは嬉しそうで。
子供達と一緒に足を進めていた。
「キラおにいちゃーん!」
キラの耳に子供達の元気な声が届き、キラははっとした。
そして軽く首を振る。
一人になるといろいろなことを考えてしまって、どうもいけない。
そう思い振り向くと、体になにかが、どしんっとぶつかってきた。
「えへへー、きらおにいちゃん」
顔を上げてニッコリと笑う。
「キラおにいちゃんもあそぼ?」
「雪、降ってきたんだよ?」
ぐいぐい、とキラの手を引っ張る。
いつの間にか、キラは子供達に囲まれてしまっていた。
「そうだなぁ……」
どうしようか?
実を言うと、今は一人でいたい気分だったのだ。
キラが思いあぐねていると、そこへラクスもゆっくりと近づいてきた。
「まぁまぁ。皆さん。キラが困っているでしょう?
皆さんは、少しの間、あちらの方で遊んできましょうね?」
「えー!!」
子供達の声が重なった。
「でも、キラお兄ちゃん。後でなら、遊べる?」
それでも言いつのる子供達。
キラは苦笑し、うん、と頷いた。
「……そうだね。後で、一緒に遊ぼうね」
「本当?」
「絶対だよ!?」
子供達の顔には満面の笑みが広がっていて。
思わずラクスも笑みをこぼすと、
「じゃあ、後でだよ?約束だからねー!!」
そう言って子供達は満足げに駆けていった。
「ラクス、ありがとう。ちょっと、今はね……」
申し訳なさそうに笑い、キラはまた空を仰いだ。
空から絶え間なく降ってくる、白い……汚れのない雪。
キラは手をぎゅっと握りしめ、目をつむった。
雪は少しずつ、ひどくなってくるようだった。
「キラ……」
ラクスの胸に不安が落ちる。
キラの姿がこのままなくなってしまいそうで……
雪にかき消されてしまうように思えて……。
「キラッ!!」
そう思った瞬間、ラクスはキラを抱きしめていた。
切なさが、胸を締め付ける。
「ラクス……?どうしたの?」
「キラが……消えてしまうように思えて…」
今、確かに抱きしめているはずなのに、不安は消えない。
自分の前から消えないで欲しい。
ずっと一緒にいて欲しい。
ラクスはさらに強く、キラを抱きしめる。
「大丈夫、僕は消えないよ。大切な人たち、守りたい人たちがいる。
そして、……君が、ラクスがいてくれる。だから……」
「……はい」
ラクスは、キラの胸に顔をうずめた。
あたたかさが、肌に伝わってくる。
キラの言葉一つで、さっきまでの不安が、まるで嘘のようだ。
不安は幸せに変わり、
寒さに温かさがにじむ
そして、それはキラにとってもきっと……。
「では、わたくし、ずーっとキラのそばから離れませんわ。
そうすれば、キラは消えられませんでしょう?」
悪戯っぽくラクスが笑うと、「そうだね」とキラも笑った。
そうして、キラは、ラクスのあたたかな体を、ぎゅっと抱きしめた。
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