今年最後の……?





大晦日。
キラとラクスは除夜の鐘をつくために、近くの寺への道を歩いていた。
道はうす暗く、足下はおぼつかない。
雪で白く薄化粧された道が月明かりでぼんやりと光ると、ラクスはまあ、口元をほころばせ、そのままキラの少し先を嬉しそうに歩く。

遠くに聞こえるのは鐘の音。
ゴーン……。
響く音の余韻が薄れればまた響く、年の末の音。

実はラクスは除夜の鐘をつきに行くのは初めてのこと。
ゆっくりとした時間を過ごすことのできる今だからこそできる体験であるため、ラクスは胸を高鳴らせていたのだ。

「キラ、早く……!」

キラの少し先をゆくラクスが、コートの裾をふわり、と翻して振り向くと、彼女のはしゃいだ顔が月に照らされる。
ふと、彼女の体がよろめく。

「きゃ!」

その瞬間すばやく動いたのはキラの体。彼女を支えたのはキラの腕。
そして、ほら、と差し出されたキラの左手。
結局ラクスの右手はキラの左手の中に収まることになり、二人並んで雪の道を歩く。

鐘の音がだんだんと大きくなり、寺が近づいてくるのがわかる。
さくさく、とさっきまで聞こえていた雪を踏む音も、鐘の音にとける。

「今年も、もう終わりですわね……」
「うん。今年は楽しかったね。でも……来年も……」
「ええ、きっと。……もっといい年になりますわ」

そうラクスが微笑んで、キラの手をぎゅっと握り返したところで、道がとぎれ、開けた場所に出た。
目の前に現れたのは小さな本堂。そして、鐘。

近隣に住んでいる人が少ないからか、鐘つきに並ぶ者も少なく、キラ達の順番はすぐに訪れるようだった。

「ね、知ってる? 除夜の鐘って……」
「? 何かあるのですか?」
「何でも、百八の煩悩を消すためにすることなんだってね」
「まあ、それは知りませんでしたわ。年の暮れに煩悩を消して、新たな気持ちで新しい年を迎える。……素敵ですわね……」

感心したように頷いて、ラクスの視線が鐘に釘付けになる。
だが、そのせいか、キラがなにかを企むように、にやり、と笑ったことに気づかないようだった。

「ラクス」

そう言うや否や、キラの腕が流れるように動き、ラクスの手はあっさりと捕まれ、体ごと、ぐい、と本堂の前に移動させられる。

「ちょっ! キラ?」

本堂の前は照らす電灯もなく、他の場所よりもさらに暗い。
いきなりの事に驚くラクスがキラに文句の一つでも、と思い顔を上げた瞬間だった。

「ん……」

ラクスの唇をふさぐのはキラのそれ。

「ちょっ……キラっ」
「黙って……」

そのとたんに再度押しつけられるそれは、ラクスの言葉をすべて飲み込み、脳を浸食していく。
こんなところで、こんなことをするなんて……。
ラクスの言いたかった言葉が、薄れていく。
ラクスの頭のなかがキラで埋め尽くされ、何も考えられなくなる。

「……ふっ……」

唇を放されるが、ラクスはしばらくの間、息を整えることに精一杯で。
それでもキッ、とにらみつければ、キラは自分は何もしていない、といわんばかりににっこりと笑った。

「だってね。今から煩悩は消えるんでしょ? じゃあ、今は……ね?」
「……!! そんなの、へりくつですわ!」

来年になればなったで、また言いくるめられるのだろう。
そう思い、やっと息の整ったラクスが赤い顔で言い返せば、キラはまた不適に笑った。
そうして、彼はまたラクスに顔を近づける。最初は抵抗していたラクスの手も、だんだんと力を失い……。

月明かりでできた影の中。
二人は甘いキスを交わした。





気づいた頃には、年を越えていて。
キラはラクスの不興を買ってしまい……。
そんな、二人の年の暮れ。







     ☆   ☆   ☆

 あとがき?
なんて言うかキラがこのまま終わるとは思えない話。でも、私もこれは屁理屈だと思います(苦笑)
というか、除夜の鐘はどうしたんでしょうね?
いつの時期か、というのも……多分、運命前です。
趣旨が変わってますが、まあ、それはそれとして見逃してください(汗)