欲しいのは、君の。





スザクの手。
あれからすぐに、ルルーシュから離れていったぬくもりだったが、まだ、残っている。昔ならば、当たり前のように触れていたものなのに、違うものに感じられた、ぬくもり。
ルルーシュは手を握りしめた。

「ルルーシュ」

その瞬間にかけられる声に、ルルーシュの肩がびくり、と跳ね上がる。スザクの、声。
振り向けば、やはりそこにいたのはスザク。
ルルーシュがいるのは生徒会。そして、スザクも生徒会のメンバー。だから当たり前といえば当たり前なのだが、どうしても慣れない。

「どうかしたか、スザク」

普段通りを装って、返事を返す。
その声を自分で聞き、安心する。ああ、普通通りだ、と。

「いや……ルルーシュは誰かのキスが欲しかったのかな、と……思って」
「はぁ?!」

ルルーシュは目を見開いた。まさか、そんなことを訊かれるとは思いもしなかったのだ。
自分が猫を追いかけていた理由はすでに知られているはずなのだから。
けれどスザクはただ不思議そうな顔をしているだけだ。

「お前、何考えてるんだ? 猫を追いかけていたのは、俺の物を持っていったからだとは知っているだろう?」
「いや……確かにそうなんだけど……」

歯切れの悪いスザクに、ルルーシュはふぅ、とため息を吐いた。
スザクが何を考えているのか、ルルーシュには理解できなかった。

「じゃあお前はどうなんだ? まさか誰かのキスが欲しかった……わけがないよな……」

考え出すルルーシュに、スザクは一瞬驚いたように目を見開いて。
それからすぐに苦笑した。スザクの手が、ルルーシュの手へと伸ばされる。

手を握られて、ルルーシュの手は震えた。
どうかしたのか、と口を開きかけて、ルルーシュは瞠目した。
スザクの眼に、貫くように見つめられて。

気がつけばスザクの顔が、すぐ傍にあった。
そのまま近くなるのを感じる。段々、近づいてくる。

けれど。
ルルーシュの口からは、何の言葉も出てこなかった。ただ、近づく顔に目を閉じた。

瞬間。
暖かなものが、唇に感じられて。

「僕は、ルルーシュのキスが欲しかったんだけどな」

ひそり、と笑うような声がルルーシュの耳に届いて。
ルルーシュは目を開けた。スザクの顔が、やはり近くにある。
けれど、先ほどとは逆に、少しずつ遠ざかる。

「ナナリーのキス……もらったじゃないか」

ふと出てきたのはそんな言葉で、ルルーシュは思考の底で自分を笑った。
視線をスザクに移すと、彼はぽかん、とした顔をしてルルーシュを見ている。
ぼんやりとそんな彼を見て、ふいに、先ほどのことを思い出して。
ルルーシュはかっ、と顔が熱くなるのを感じた。

「ルルーシュ……?」

スザクの声が、ルルーシュの耳に響く。
ルルーシュは思わず唇を押さえた。

「おまえ……! 何するんだ、スザク……!!」
「だから言ったじゃないか。僕が欲しかったのは、ルルーシュのキスだって」

ルルーシュのいまさらの言葉。それにくすくすと笑いながら、スザクは告げる。
余裕のあるその姿に、ルルーシュは何も言うことができない。ただ、口をぱくぱくと動かすだけだ。

「覚えておいて、ルルーシュ。僕が欲しいのは、君のだけだってこと」

スザクの笑顔と、言葉が。
ルルーシュの心に、眼に、焼き付いて離れなく。
耳からも、消えてくれそうになかった。

そして。
また、スザクの手のぬくもりが、離れていく――。





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まあ、誰でも考えますよね。
スザクが必死だったのは、何で?って。やっぱり考えちゃいますよね。
そんな妄想を文にしてみました。
きっとどこでもやってるネタですみません。

これはもう、明らかにスザルルですね。間違いないですね。
初めて書いちゃったよ……こんなの。自分にびっくりです。