真っ白なカンバスが
クレヨンの色で埋まっていく様子は
実に感動的にグロテスク
パステル
コツン、と。
不意に 足元に何かが当たる。
有るか無いか位に小さな衝撃は、
それでも ボクの目線を下に落とす位には気を引いた。
洗濯したてで真っ白な俺の靴の横。
転がっている 赤のクレヨン。
一本50円くらいの 明らかに安物のソレは
明らかに 日常的に廊下でお目にかかれる物じゃない。
何気なくそれを拾ったら、
ちょっと後ろで オートロックの扉が開く電子音。
振り向いたら、ステラがボクの名前を呼んで寄ってくる。
「アウル」
細めた大きな瞳が潤んでるのは 泣いた後なのか、泣きそうなのか。
両方かもしれないな。
保父さんのタレントが皆無なボクは さっさと逃げようと試みるも。
後ろでステラが裾を引っ張るので 結局断念。
目線だけで嫌みを言えば、ステラはボクの手元だけを凝視している。
ボクの手に有るっつったら 赤いクレヨンだけ。
「赤 あった」
うっとりと そう言うステラは
今度は嬉しそうに 目を細めた。
どうやら 迷子のクレヨンの持ち主は現れたみたいで。
ボクは ああ良かったね、と言ってやる。
「何? 花でも描くの?」
赤いクレヨンを帰してやるボクの
掌に乗ったクレヨンに 女らしい細い指を乗せて。
ステラは無言で 首を横に振る。
じゃあ何描くのさ。
絵心とかはサッパリな上に
ステラの幼稚なセンスについていけないボク。
ステラは それはそれは幸せそうに笑って。
「アウル 描くの」
そう言ってのけたものだった。
鼻白んだボクを気にせず、ステラは幸せそうな顔で
どうでも良い事を一方的にしゃべり出す。
ネオとスティングも描いたんだ、やら。
ボクだけ上手くいかないんだ、やら。
(ステラの上手いの基準を あてにしてはいけない)
その途中で 色が足りなくなった事に気づいて
慌てて外に出たら クレヨンを持ったボクとエンカウントして。
そして今に至るそうだ。
ステラの白い指の中で 真っ赤に映えるクレヨンを眺めて。
何で赤色なんだよ
ボクはそう呟く。
真っ白な肌と 淡い水色の髪と。これまた淡い緑の目。
ボクのパーツのどこを探したって
赤色なんて無い気がするんだけど。
首を傾げるボクに ステラは小さく笑う。
「とっても 真っ赤」
赤いクレヨンを胸に抱いて。
ステラは ボクにくるりを背を向けると、
嬉しそうに 部屋の中へと戻って行った。
赤い色は どこに置かれるんだろう。
ちょっと気になったので
暗記してしまったオートロックの番号を入力すると
勝手知ったるステラの部屋をちょっと覗く。
「椅子 座ってて」
部屋が開けられる音に ステラは指でパイプ椅子を指し示す。
床に散らばるパステルクレヨンの中に
こぢんまりと 座り込むステラ。
置かれた真っ白な画用紙。
ボクの真っ白な肌と。
淡い水色の髪と。
緑の目で 笑うボク。
紙に描かれた 下手くそなボクは
真っ赤なクレヨンで 塗りつぶされていた。
ステラの真っ白な指で。
何度も 何度も。
真っ赤に染まっていって。
最後には 肌色なんて微塵も残っていないボクの顔。
「出来た」
そう言って ラクガキを掲げて眺めるステラは
うっとりと 頬まで染めて
これ以上ない程に 幸せそうな笑顔だった。
ぎゅ、と
それはそれは愛おしそうに ラクガキを抱き締めるステラ。
胸に押しつけられた 真っ赤なボク。
赤いクレヨンは 密着するステラに真っ赤な色をうつして。
ステラの白い胸元に 真っ赤な染みがよく映えた。
ボクって そんなに真っ赤な訳?
そう言うボクに
ステラは 真っ赤だ と一言言って。
「だから 大好き」
ステラ 赤い色好きだから
そう
溶ける位幸せに笑ってのけたものだった。
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