三回回ってワンと鳴く。
MSの整備中。
金属を削る嫌な音。
飛び交う専門用語。
つまらない空間。
何度目かの欠伸をした時に。
「ネオ!」
唐突にホールに響いた高い声。
またか。
見ると、ステラがネオに飛びついている。
ネオの周りをくるくる回って。
腕に掴まったかと思うと、ネオの顔を覗き込んでみたり。
ぎゅうと背中に抱きついてみたり。
あー、乳モロに当たってない?アレって。
「えらく懐いたモンだなぁ」
横でメカニックが呆れた風に呟く。
その目線の先には、ネオに頭を撫でて貰ってるステラ。
揺れる金の髪。
浮かぶ柔らかい笑み。
細まる赤い瞳。
「ご主人様になつくイヌみたいだ」
犬?
浮かぶ嘲笑。
違うよ。ステラはネオにじゃれてるだけ。
「ねぇステラ」
にっこり。
なるべく優しい笑顔を浮かべて。片手を挙げてステラに挨拶。
当のステラはネオにぴったり、ひっつき虫。
「ちょっとこっちに来なよ」
ちょいちょいと右手を振る。
おいでおいでの動作。
訝しそうに見てくるステラ。
もう一度おいでと言うと、素直にネオから身を離した。
そのままコッチにやってくるステラ。
何、と小さく首を傾げる。
ちょっと待って。
そう言って、膝を曲げる。
これで同じ高さの、ステラと僕の頭。
目の前には綺麗な赤。
「ステラ。キスして?」
口元をちょいと指さすと、従順なステラはコクンと頷く。
ゆっくりと近づくステラの顔。
ステラの唇の乾いた感触。
絡んでくる舌。
粘着質な音。
注文しても居ないのに、凄いディープなキスがプレゼント。
離れる顔。
糸を引いて落ちる唾液はコンクリートの床に落下。
次々に出来る銀の染み。
「…アウル」
熱っぽい声。
上がった息。
目の前で上下するでかい胸。
腐る程人が居るのに。
大好きなネオが後ろに居るのに。
何てヤらしいステラ。
「…ねぇ…」
「整備中だろ。またいつかな」
不条理なおあずけ。
ヒラヒラと手を振って、ステラから離れる。
不意に、右手に掛かる重力。
振り返ると、縋るように見つめてくるステラ。
見上げてくる柘榴の瞳。
潤んだ目に浮かぶのは澄んだ涙と妖しい色。
思わずこぼれる笑み。
「分かった分かった。終わったら部屋来いよ」
顔を綻ばせるステラの額に、小さくキスをした。
本当の犬っていうのはね。こういうのを言うんだよ。
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