ホット・ショコラータ
イタリアを思わせるオープンカフェ。
海に面した席に、アウルとステラは向かい合って座っていた。
注ぐ日に目を細め、メニューを片手にしている姿は、どこにでもいる少年と少女。
人で溢れた海辺をぼんやりと眺めながら、アウルが呟く。
「スティング、あとどれ位で来ると思う?」
「…さぁ…」
分からないと無感動に言うステラに、だよね〜、とアウルがため息。
アウルとステラがカフェという慣れない場所に居る理由。
早い話が、迷子である。
3人で町を歩いていた所。
まずステラが消えた。
気づいて探しにいったアウル。
ブランド店の前で服をうっとりと見つめているステラを発見したは良いが、今度はスティングの居場所が分からない。
ミイラ取りがミイラになったの良い例。
こうして、スティングが見つけてくれるまでカフェで待っているという訳だ。
おとなしく座っているステラ。
その顔はメニューに釘付け。
デザートの欄を往復するステラの瞳。
細めた目に宿る光は、戦闘の時のソレにも迫る気迫。
「…チーズケーキは譲れない…だけど…ミルフィーユを捨てるなんて無理…駄目…そんなに見つめないで、パンナコッタ…」
どうやら、どのデザートを頼むか決めかねている様子。
流石は女のコ。赤に白にと可愛らしい色合いのデザートは、どれも魅力的に映って仕方がないらしい。首を捻って考え込むステラ。
彼女の弱い頭では、一日経っても決まる事はなさそうだ。
(店員に迷惑だろ…)
はぁ。
アウルは今日何度目かの溜息をついた。
「二つ頼んで、僕とステラで分けりゃ良いんじゃないの?」
足りなきゃスティングにも奢らせりゃ良いし。
アウルの提案に、ステラはぱぁと目を輝かせて。
チーズケーキとミルフィーユの二つを頼んだ。
チーズケーキを食べ終え、ミルフィーユに手を付けるステラ。
段になったパイ生地の上には、薄く塗られた生クリーム。
添えられた苺の赤とブルーベリーの紫が鮮やかだ。
フォークで掬い、口に入れる。
口に広がるサクサクとした感触。
ほのかな甘みに、ベリーの酸味がさりげなくアクセントをきかせている。
「美味しい…」
「そりゃ良かったね」
既に二つとも食したアウルは、頬杖を付いてステラを見る。
前で美味しい美味しいと感動を素直に表すステラ。
溶ける様な笑顔。
(菓子なんて何処も一緒だろーに)
小さくアウルは笑った。
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