もしも願いが叶うなら 無人島に行きたい






君と僕の二人乗せて。









「ステラ、何か悪いコトしたの?」

首をかしげて見上げてくるステラ。
赤い目の端はピンク。
よっぽど泣いたんだね。

きゅうと抱き締められたステラの腕。
中で笑ってる小さなぬいぐるみ。
服を着たウサギさん。
赤目に白のカラーリング。
愛らしい顔は胴体に対して傾き45度。
丸い顔と襟の間から覗く綿。
首からはみ出した白い肉。

首をもいだのは他ならぬ僕。
はしゃいでるステラの前で。
腕の中からひったくって。
目の前で、プチンともいでやった。

あの時のステラの顔。
信じられない、って目を開けて。
大きな瞳に涙が溜まって。
何か言いたそうに口を開く。

濡れた唇。
覗く舌。
赤い瞳に僕だけが映ってる、あの感動。

「ウサギさん…可哀想…」

僕が何も言わないと、ステラはうつむいてしまった。
もしかしたらまた泣いちゃったのかもしれない。
下を向いたまま、ステラが呟く。

「何で?」

なんで、なんで、なんで。

ステラが訊きたい事はよく分かる。

何でアウル・ニーダは無抵抗なウサギさんを殺してしまったのでしょう?

困り果ててしまったステラ。
僕は笑って答える。

「ステラが泣くから」

僕の言葉にステラが顔を上げる。
向けられた目には新しい涙。
やっぱり泣いてたんだ。

「ぬいぐるみなんて、いつかボロボロになっちゃうだろ?」

金の髪に指を差し入れる。
流れにそってゆっくり梳いてやる。
指に滑らかな絹の感触。
淡い花の香り。

僕を見つめるステラ。
涙で濡れた睫。
小さく開かれた唇。

「いつか壊しちゃうんだよ。ステラが」

強張るステラの体。
震える小さな肩。
かき寄せる手は肩に移動。
支えを無くした人形は、万有引力の法則に従って地面に落下。

すっかり青ざめたステラ。
僕は優しく笑って抱き寄せてあげる。

「だから僕が先に壊してあげたの」

歯の根が合わないらしく、カチカチと歯を鳴らす。
胸元に感じるステラの息。

「泣き虫なステラが泣いちゃうといけないからね」

僕は笑って顔を寄せて。
ステラの開いた唇に、僕のを押し付けた。



寂しがりやのステラちゃん。
君に大切なモノが出来たら 僕が殺してあげよう。
目の前で。ゆっくりと。
弱虫なステラが 自分で壊して泣き出してしまう前に。
そして気が付いたら僕と君の二人だけ。
二人だけの無人島。
僕だけはずっと君の傍にいてあげる。

寂しがりやの君が泣くといけないから。



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